JR新博多駅ビルの核テナント、井筒屋譲歩で新たな局面再開発が進むJR博多駅前(中央が現駅ビル) 2011年春に開業予定の新博多駅ビルの核テナント選定問題は、井筒屋が6日、JR九州との民事調停で、大幅に譲歩したことで新たな展開を迎えた。
JR側は高島屋などの大手百貨店を軸に、月内にも核テナントを決める方針だが、営業継続の方法を巡る井筒屋との協議も絡み、核テナント選定の行方には、なお不透明感も漂っている。
井筒屋が「核テナント問題に固執しない」考えを明らかにした結果、今月中をめどにしているJRの核テナント選びは、高島屋と阪急百貨店の2社を軸に進む見通しだ。
◆平行線
JR九州と井筒屋は一昨年12月から、新駅ビルの核テナント問題を協議してきたが、「(高島屋など)出店を希望する複数の候補の中から最もふさわしい百貨店を選ぶ」とのJR側の方針に対し、現駅ビルで子会社の博多井筒屋が約40年間営業してきた井筒屋は「まずは当社と個別(優先的)に協議すべき」と主張し、対立した。
昨年10月末に井筒屋が福岡簡裁に民事調停を申し立て、調停委員を交えて打開策を探ったが、選定方式という“入り口”で議論が平行線をたどり、交渉は行き詰まっていた。
◆譲歩の背景
井筒屋側は調停後、「博多駅の開発や地域の利益を優先させた結果だ。核テナント出店が理想ではあるが、それにこだわらず、幅広い営業形態を模索して(交渉を)前に進めるべきと判断した」と、JR側に譲歩した理由を説明した。
交渉が暗礁に乗り上げたままだと、JR側が井筒屋抜きで核テナント選びを進め、井筒屋にとっては「不戦敗」という事態を招きかねないとの判断も働いた模様だ。
JR側の核テナント選定が大詰めを迎えている実情を踏まえ、「博多井筒屋の10万近いカード顧客や従業員を守る」ため、柔軟路線に転じたとも言える。
JR側との対立が長引くことによるイメージの低下にも配慮したとみられる。
◆核テナントの行方
一方、JR側は、今回の井筒屋の譲歩について、「一歩前進」と評価しながらも、「予想外だった」と戸惑いを隠さない。
核テナントを巡っては、井筒屋のほか、高島屋も出店表明し、阪急百貨店も出店に意欲的だ。
JRの計画では、新駅ビルの総面積は約20万平方メートル。このうち、核テナントの百貨店は6万平方メートルを想定しているが、最有力候補の高島屋は8万平方メートルの店舗面積を求めており、JRとの交渉は難航している。
これに加え、JRは、現駅ビルに入居する博多井筒屋(店舗面積約1万8000平方メートル)をどのような形態や面積で新駅ビルに入居させるのかという難しい宿題を突きつけられた形だ。
JRは今月中に核テナントを選定する方針を変えていない。核テナントの選定作業を進めながら、井筒屋とは調停外の個別交渉で具体的な営業継続に向けた提案をしなければならない。限られた店舗面積をどう割り振りするのか、JRの交渉力が一層問われる。
JR博多駅ビル再開発を巡る動きと今後の予定
2004年12月27日 井筒屋が弁護士事務所と業務委託契約。「営業継続」を主張
2005年 1月11日 井筒屋がJR九州に出店表明
3月31日 新駅ビルの準備工事開始
4月12日 高島屋が出店表明
10月31日 井筒屋が新駅ビルへの継続出店を求める民事調停を福岡簡裁に申し立て
12月 6日 1回目の民事調停
同27日 井筒屋が、JR側に出店交渉の条件を文書で提示
同29日 井筒屋が、JR側に出店交渉の条件を文書で提示
2006年 1月 JRが「他の百貨店との交渉を06年2月末まで中断する」と文書で回答
同31日 新駅ビル着工
2月10日 2回目の調停
同20日 JRが「選定方法を変えるつもりはない」と文書で回答
3月 6日 3回目の調停。井筒屋が「核店舗としての出店に固執しない」と表明
JRは3月中にも核店舗を決定
2007年 4月 現駅ビル解体工事開始
2011年 春 新駅ビル開業、九州新幹線全線開
読売新聞より